大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)1545号・昭34年(ワ)1547号・昭34年(ワ)1546号 判決
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〔判決要旨〕賃借人に、売買により賃借建物の所有権を得たと信じさすべき事情が賃貸人側にもある場合は、賃貸人が賃料の催告およびその不払を条件として賃貸借契約解除の意思表示をするには、信義則上、賃貸人においてあらためて、相当の方法により自らが依然として賃貸建物の所有権を有し、賃借人に対し賃料債権を行使できる地位ににあることを明らかにしたうえで、これをなすべきである。
〔判決理由〕被告(賃借人)らは原告(賃貸人)から賃料支払の催告を受けた当時、原告が本件建物等の所有者であり、賃貸人たる地位を有することに疑いを抱き、むしろ被告らこそ原告主張の各賃貸建物を買受け、所有権を取得したと信じて原告に対する賃料の支払をせず催告期間を徒過したことが推認され、被告らをしてそのように信じさせるにいたつたのは、前記のとおり、原告が長期間海外に滞留して帰国の時期を予測できない状態にあり、原告の唯一の直系血族である長男廸夫が原告の印鑑および権利証を訴外会社に提示して本件家屋等の売買契約を締結したこと、原告が帰国後本件について被告らと前記交渉を重ねるうち、被告らに対し、訴外会社に対する売買残金を直接原告に支払うよう要望し、あるいは、代金の増額案を提示して、あたかも廸夫の本件各家屋等の売却行為を追認するような言動を繰返したこと、その後本件賃料催告にいたるまで何ら特別の処置を講じた形跡がなく、無為に約五年間を過していること、被告らはその間に、訴外会社との売買契約に従い、ごく一部を除き、ほとんど代金を支払つたこと等の事情による。このような事情のもとにおいて原告が賃料の催告およびその不払を条件として賃貸借契約解除の意思表示をするについては、信義則上、原告においてあらためて、相当の方法により原告が依然として原告主張の賃貸建物の所有権を有し、被告らに対し本件賃料債権を行使できる地位にあることを明らかにしたうえで、これをなすべきである。しかるに、原告は何らそのような措置をとることなく、昭和三三年一〇月二八日にいたるや、突如一片の通告書をもつて被告らに対しそれぞれ賃料の催告をし、かつ、その不払を条件として各賃貸借契約解除の意思表示をしたものであつて、この場合、被告が賃料供託の手続に出なかつたことを考慮に入れても、被告らに不信行為があつたということはできず、原告の解除権の行使はその方法において著しく信義に反し、効力がないものといわなければならない。(杉山克彦)